「せう」「でせう」「ませう」

 動詞「する」、助動詞「です」「ます」の活用を並べてみる。

活用 共通語尾 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
する する する すれ せよ
です (す)
ます (する) (すれ)

 「する」の未然形には他に「さ」や「し」があり、命令形には「しろ」があるが、これについては後で触れる。ここでは表にある未然形「せ」に注目する。もともと文語文法では、未然系には打消し「ず」と推量「む」が接続するとある。これらは活用や音韻の変化を経て、口語では「ぬ」と「う」になってゐる。まづ、「ぬ」が接続すると「せぬ」「ませぬ」となる。「です」には「ぬ」は接続しない。標準語では通常は終止形の「ぬ」は使はれないが、中止表現の「せず」、撥音便の「ません」は立派に使はれてゐる。以下で、打消し「ぬ」の活用形を整理してみよう。

活用 共通語尾 未然 連用 終止 連体 仮定 命令
(ん) (ん)

 一方、推量「う」が接続する場合は、多少の解説が必要である。

正仮名遣ひ 現代仮名遣ひ
する せう (しょう)
です でせう でしょう
まる ませう ましょう

 上記の表から「でせう」「ませう」が、サ変動詞「する」の推量表現「せう」と関連が深いことは理解できる。しかし、肝心の「する」の場合、推量表現は標準的な形式は、現代仮名遣ひでは「しよう」であり「しょう」とは違ふ。明治時期の正仮名遣ひは、拗音を小書きする習慣は一般的でなく、「しよう」が「シヨー」と読まれてゐたが、「ショー」と読まれたゐたかは不明だが、「せう」といふ表記が採用されなかったことから、拗音ではなく、「シ・ヨ・ー」といふ独立した三拍で読まれてゐたのだらう。
 ところで、英語でbe動詞と言へば不規則動詞の代表格であるが、日本語では「する」がそれに該当する。言語学的には、不規則動詞は、記憶への負担が原因で徐々に淘汰されて規則動詞に統合されていくものだが、社会学的には、集団の内外を区別するために、使用頻度の高い単語をあへて不規則にして、よそ者を識別する標章として使ふことがある。それが、英語ではbe動詞であり、日本語ではサ行変格活用「する」である。イギリスでは、一昔前ではbe動詞の使ひ方で出身階層が分かると言はれてゐた。日本ではそこまで極端でないものの「する」の活用は方言によって大きく違ふ。
 サ行変格活用では未然形でも大きく不規則化した。使役、受身表現は、「せさせる」「せられる」から「させる」「される」と変化し、これは四段活用と似た形式に変化した。一方、打消しの表現では「しない」と従来の未然形「せ」ではなく「し」に接続するといふ不規則化を起こした。これは、標準語が関西方言から関東方言になったことも影響してゐる。命令形も「しろ」と「せよ」が併存してゐる。そして、可能表現に至っては、「させる」「せられる」の正統な表現に取って代はり、別の動詞「できる」で補完してゐる。これは、英語で言へばgo(go-went-gone)の過去形と同じ状況だ。

使役 受身 打消し 推量 可能
規則化(理論) せ・させる せ・られる せ・ぬ せ・よう せ・られる
不規則化(現実) さ・せる さ・れる し・ない し・よう できる