文字と言葉の世界一周

 博学多趣味な戦前生まれの(当時)70代爺による文字と航海の随筆集。余りにも博学過ぎて、漢字、ハングル、デバナガリ、アラビア文字ギリシャ文字キリル文字、ローマ字を、自己の世界一周の船旅と共に取り止めもなく一気に解説してゐる。取り止めのなさは今はやりのブログそのもの。確かに還暦過ぎても学習意欲は盛んなやうだ。世界一周と言っても文字の多様性があるのは日本からクレタ島までであり、そこを過ぎれば通用字はローマ字だけなので、文字の話は終はり、船旅に関連して経度緯度の解説や星座早見盤の解説、最後は脱線して歴代天皇とか千字文の暗記方法まで紹介してゐる。確かに、パナマ運河を越えれば後は太平洋の海原だけなので、景色を見ても飽きるだらうし、不夜城である豪華客船から満天の星を観測するのも場違ひなので、結局は千字文でも唱へるしかなったのかも知れない。
 でも、一度は豪華客船で世界一周の旅をしてみたいものだ。アメリカ駐在時にフロリダからバハマまでディズニー・クルーズに乗ったことはあるが、あれは楽しい思ひ出になった。
 最初の方は表音主義者と疑はれるかのやうに訓読みを平仮名だけで記す章があり違和感があったが、途中から訓読みも漢字で書いて違和感がなくなった。それについては後書きで「意図して書いたが思ったやうな表現ができないので途中からやめた」と断り書きがあった。何ともチャレンジングで何とも柔軟性のある爺だと思った。他にも、入稿は康煕字典体でしても、印刷されるときは常用漢字字体になるが、それも良きに計らへといふ態度らしい。