特集「ローマ字の分かち書き」: NQ式ローマ字

(2019/02/09)

 分かち書きの実践の前に、この特集で使用するローマ字を説明します。便宜的にNQ式ローマ字と呼ぶことにします。『ヱピモセズ・ブログ*1』で実践してゐるものです。訓令定義*2との対比で説明します。

訓令定義内

2 国際的関係その他従来の慣例をにわかに改めがたい事情にある場合に限り、第2表に掲げたつづり方によつてもさしつかえない。

 現実に普及してゐるのは、訓令第2表にあるヘボン式由来のつづりであり、政府機関もそれを追認してゐる*3ので、俄に改めがたい事情として、ヘボン式を基底として拡張します。原則は訓令第一表のつづりですが、下線は訓令第2表のつづりで、括弧内は重出のつづりです。

a i u e o
ka ki ku ke ko kya kyu kyo kwa
ga gi gu ge go gya gyu gyo gwa
sa shi su se so sha shu sho
za ji zu ze zo ja ju jo
ta chi tsu te to cha chu cho
da (ji) (zu) de do (ja) (ju) (jo)
na ni nu ne no nya nyu nyo
ha hi fu he ho hya hyu hyo
ba bi bu be bo bya byu byo
pa pi pu pe po pya pyu pyo
ma mi mu me mo mya myu myo
ya yu yo
ra ri ru re ro rya ryu ryo
wa wo

1 はねる音「ン」はすべてnと書く。
2 はねる音を表わすnと次にくる母音字またはyとを切り離す必要がある場合には、nの次に’を入れる。

  • アン(an)、アンキ(anki)、アンピ(anpi)、アンイ(an'i)

3 つまる音は、最初の子音字を重ねて表わす。

  • イッカイ(ikkai)、イッサイ(issai)、イッタイ(ittai)、イッパイ(ippai)

4 長音は母音字の上に^をつけて表わす。なお、大文字の場合は母音字を並べてもよい。

 字上符「^」は情報機器で入力が難しく、パスポートでも認めてゐないので、使用しません。大文字だけでなく、小文字でも母音字を並べることにします。また、仮名文字でエ段+「い」、オ段+「う」とつづられてゐるものは、長音か否かの解釈に揺らぎがあるので、仮名文字に従ひます。

  • アー(aa)、イー(ii)、ウー(uu)、エー(ee)、オー(oo)
  • アア(aa)、イイ(ii)、ウウ(uu)、エエ(ee)、オオ(oo)
  • エイ(ei)、オウ(ou)

5 特殊音の書き表わし方は自由とする。

 特殊音を訓令定義内で書き表はす場合、小書き仮名(捨て仮名)を通常の仮名とみなしてつづります。さらに訓令定義にない「ヴ」は「ブ」に置き換へます。

  • ヴォランティア→ヴオランテイア→ブオランテイア(buoranteia)

6 文の書きはじめ、および固有名詞は語頭を大文字で書く。なお、固有名詞以外の名詞の語頭を大文字で書いてもよい。

 大文字で書く名詞として、音読みの漢字熟語、片仮名書きの外来語も含めます。音読みの漢字でも、接尾辞は語頭に来ることがなく、単一漢字からなるサ変複合動詞は名詞ではないので小文字のままです。大和言葉由来の名詞は小文字のままです。

  • 訓令定義内(Kunrei-Teigi-nai)、ローマ字(Rooma-ji)、信ずる(shin-zuru)、仮名(kana)

 その他、助詞「は」「へ」は「wa」「e」とつづりますが、助詞「を」は「wo」のままにします。

訓令定義外: 翻字

 訓令定義外でいくつかの定義を追加します。まづ、小書き仮名、促音、長音符を含む翻字用のつづりを追加します。小書き仮名の印には抑音符グレイブ「`」を前置きします。直前の母音字と合成*4してもかまひせん。なほ、促音にはヘボン式の慣例上「tch」の組み合はせも採用します。
 記号として、抑音符「`」とアポストロフィ「'」を使ひます。「`」は、主に外来語で使はれ、使用頻度が低く、省かれても影響はあまりありません。一方、「'」は固有語で頻繁に使はれ、省かれると文意が変はる危険性があるので、それを防ぐために、「'」の代はりに英字の「q」を使ひます。主に「n'」の代はりに使用されて「nq」となることが多いので、これが、NQ式ローマ字といふ名称の由来です

`a `i `u `e `o `ya `yu `yo `wa
dji dzu dja dju djo q
wi vu we h
  • アッ(aq)、アー(ah)、アッチ(atchi)、アンイ(an'i→anqi)
  • ヴォランティア(vu`orante`ia, vùorantèia)

 ここで、長音符の「h」は、後ろに母音字や半母音字が来たときのハ行音との区別、後ろに「h」が来たときの促音との区別には、「q」を適切に利用すれば解決しますが、運用が複雑になりますので、「h」を使用するよりも「ah→aa」のやうに母音字で代替する方が確実です。運用方法は『付録: NQH式ローマ字』の章を読んでください。
 これで全ての特殊音がローマ字に翻字可能になり、記憶への負担も少ないので、この方法で十分だと思ふ場合は、次の『特殊音』の章を読み飛ばして構ひません。

訓令定義外: 特殊音

 参考までに、いくつかの特殊音を訓令定義外で再定義した表を紹介します。「+」で印を付けた区画は訓令内で既に定義済みのものです。下線は『外来語の表記*5』に掲載されてゐるものです。それ以外のつづりは定義上存在しますが積極的に使用を推奨するものではありません。

ye wi we wo
vya vyu vyo va vi ve vo
+ + kye + kwa kwi kwe kwo
+ + gye + gwa gwi gwe gwo
+ + she + swa swe swo si
+ + je + zwa zwe zwo zi
+ + che + tsa tsi tse tso ti
dja dju dje djo dza dzi dze dzo di
tya tyu tyo twa twi twe tu
dya dyu dyo dwa dwi dwe du
+ + nye + nwa nwi nwe nwo
+ + hye + hwa hwi hwe hu
+ + bye + bwa bwi bwe bwo
+ + pye + pwa pwi pwe pwo
fya fyu fyo fa fi fe fo
+ + mye + mwa mwi mwe mwo
+ + rye + rwa rwi rwe rwo
  • ヴォランティア(vorantia)

 上記の表で、左側が開拗音系の拡張、中側が合拗音系の拡張、右側は特別定義です。特殊音を定めた結果、下記のやうな重複が出てきます。

  • 訓令第一表との重複: si zi ti tya tyu tyo tu hu
  • 訓令第二表との重複: wo kwa gwa di dya dyu dyo du
  • NQ式内での重複: wi we wo kwa gwa

 NQ式内で重複定義を使ひ分ける目安を示します。

  • 原則、「wi we wo kwa gwa」は「ウィウェウォクァグァ」と見なします。
  • 助詞の「wo」は「ウォ」でなく「を」と見なします。
    • これは、助詞の「wa, e」を「ワ、エ」でなく「は、へ」と見なすのと同じです。
  • 古語の「wi we wo kwa gwa」は「ヰヱヲクヮグヮ」と見なします。
  • 古語の文脈で「ウィウェウォクァグァ」を混同なく示したいときは、「u`i u`e u`o ku`a gu`a」または「ùi ùe ùo kùa gùa」を使ひます。

付録: 「q」の正体

 ローマ字で促音やアポストロフィ「'」の代はりに「q」を導入する理由とは、「q」が訓令定義で使用されてゐない文字であることよりも、音声学的に声門閉鎖音に近い文字であることです。次に日本語の音素を表にします。

唇音 舌音 歯音 牙音 喉音
破裂音 p,b t,d k,g q
破擦音 ts ch
摩擦音 f s,z sh,j h
鼻音 m n
半母音 w r y

 厳密にはもう少し分類を詳細にした方がいいですが、表を簡潔にするのを優先してゐます。この表で、喉音の破裂音が、声門閉鎖音「q」になります。声門閉鎖音は音として意識しませんが、母音や半母音を明瞭に発音するときにそれらの前に付く子音です。単独では促音の機能を持ちます。丁度、鼻音の「n」が母音の前ではナ行の音となり、単独では撥音となるのと同じです。

  • ン(n)、ナニヌネノ(na ni nu ne no)
  • ッ(q)、アイウエオヤユヨワ(qa qi qu qe qo qya qyu qyo qwa)

 例へば、「カイ」を明瞭に発音すると、「kaqi」となります。「q」を省略しても意味が変はらないので、「kai」でも構ひません。一方「カンイ」を明瞭に発音すると、「kanqi」です。ここで「q」を省略すると「kani」になり、仮名文字では「カニ」となってしまひ、意味が変はるので、省略できません。次のやうにつづるのは代替的な表記ではなく、むしろ音声学的には正統な表記と言っていいでせう。

  • アオ(aqo=ao)、アッオ(aqqo)、アッカ(aqka=akka)、アンイ(anqi)

 声門閉鎖音「q」は、母音字が複数並んだときに、長音でない箇所を明示する場合にも現れます。

  • オオオカ(ooqoka)

付録: NQH式ローマ字

 訓令定義に「ッ」の翻字と「'」の代替を加へたのがNQ式ローマ字で、さらに「ー」の翻字を加へたのがNQH式ローマ字です。付録としてそれぞれの方式で特殊拍(撥音、促音、長音)をどう扱ふか紹介します。

  • 撥音
    • 訓令定義: 原則「n」で表す。母音字(a,i,u,e,o)と「y」の前では「n'」で表す。
      • アン(an)、アンキ(anki)、アンマ(anma)、アンイ(an'i)
    • NQ式: 原則「n」で表す。母音字と「y」の前では「nq」で表す。「ヌァ」行を使用するときは「w」の前も「nq」で表す。
      • アンイ(anqi)
    • NQH式: NQ式と同じ。
  • 促音
    • 訓令定義: 直後の子音字を重ねる。
      • イッカ(ikka)、イッサ(issa)、イッタ(itta)、イッパ(ippa)
    • NQ式: 原則子音字を重ねるが、「q」に置き換へてもよい。母音字と半母音字(y,w)の前では「qq」で表す。慣例上「tch」も使用できる。
      • イッカ(iqka)、アッ(aq)、アッオ(aqqo)、アッチ(atchi)
    • NQH式: NQ式に加へて、「h」の前では必ず「q」を使用する。
  • 長音
    • 訓令定義: 仮名遣ひに関はらず、長音と判断したものは母音字の上に「^」をつける。大文字のときは、直前の母音字を重ねてもよい。ただし長音の判断基準について言及はない。
      • オウ、オオ、オー(ô, Ô, OO)
    • NQ式: 長音の判断はせず、現代仮名遣ひに従ふ。「ー」を使用したときのみ、長音と判断し、直前の母音字を重ねる。
      • オウ(ou)、オオ(oo)、オー(oo)
    • NQH式: 長音の判断はせず、現代仮名遣ひに従ふ。「ー」は「h」で表す。母音字と半母音字の前では「hq」で表す。「hh」の並びでは、促音にはならず、長音になる。
      • オー(oh)、オーエン(ohqen)、コーヒー(kohhih)
  • 比較例
ゴウオン ゴーオン ゴウホウ ゴーホー ゴッホ ゴホウ ゴホー
訓令定義 gôon gôon gôhô gôhô gohho gohô gohô
NQ式 gouon gooqon gouhou goohoo goqho gohou gohoo
NQH式 gouon gohqon gouhou gohhoh goqho gohou gohoh

更新履歴

  • 2019/02/09: 作成
  • 2019/03/01: 公開
  • 2019/08/08: 短音符ブリーブ「˘」から抑音符グレイブ「`」に変更
  • 2019/08/31: 重複定義の使ひ分けを追加
  • 2019/10/13: 二連小書き仮名は別記事*6に移動