特集「訓令議事録」: ラ行の扱ひ

(2019/12/15)

  • 田口委員提案
    • ラ行を la li lu le lo と書き表わすこと。

 日本語のラ行は[R]と[L]でどちらがふさはしいのか良く議論になります。キリシタンのローマ字表記*1でもヘボン博士の和英語林*2でもラ行に[R]を使ってゐることから、日本語母国語話者でない人にはラ行は[R]のやうに聞こえるでせう。
 もちろん、ラ行は[L]であると決めて使ふことは問題ありません。ただ、表記といふのは大きな慣性があって、一度[R]と決めて、多くの人が問題意識を持たないのに、一部の意見だけで[L]に変へるのは難しいです。逆に、[TI]と[CHI」の対立、[Ô]と[OU]の対立は、前者が原則であるにも係はらず、後者が使はれるといふことは、多くの人が前者に疑問を持ってゐることになります。
 参考までに日本語憲法前文の最初の一文を[R]でつづったものと、[L]でつづったものを掲げます。それ以外の部分は訓令第一表*3の定義でつづってゐます。

[R]を使用

Nihon-kokumin wa, seitô ni senkyo sareta kokkai ni okeru daihyôsya o tû-zite kôdô si, warera to warera no sison no tame ni, syokokumin to no kyôwa ni yoru seika to waga kuni zendo ni watatte ziyû no motarasu keitaku o kakuho si, seihu no kôi ni yotte hutatabi sensô no sanka ga okoru koto no nai yô ni suru koto o ketui si, koko ni syuken ga kokumin ni son-suru koto o sengen si, kono kenpô o kakutei suru.

[L]を使用

Nihon-kokumin wa, seitô ni senkyo saleta kokkai ni okelu daihyôsya o tû-zite kôdô si, walela to walela no sison no tame ni, syokokumin to no kyôwa ni yolu seika to waga kuni zendo ni watatte ziyû no motalasu keitaku o kakuho si, seihu no kôi ni yotte hutatabi sensô no sanka ga okolu koto no nai yô ni sulu koto o ketui si, koko ni syuken ga kokumin ni son-sulu koto o sengen si, kono kenpô o kakutei sulu.

特集「訓令議事録」: 新日本式

(2019/12/15)

  • 服部委員の意見(ローマ字調査審議会当時に提出)
    • タ行を ta ci cu te to
    • チャ行を cya cyu cyo

音韻論と正書法―新日本式つづり方の提唱 (日本語叢書)
 新日本式が他のローマ字拡張方式と異なるのは、そのつづりが、政府主催のローマ字調査分科審議会で実際に提案されたからです。もちろん、議事録には新日本式の用語は記されてゐません。採用に至らなかったものの、日本式やヘボン式以上に訓令第一表に近い方式*1となってゐます。[チ][ツ][チャ][チュ][チョ]以外の定義は訓令第一表と一致してゐます。
 撥音や促音も訓令定義と互換性を持ちながらも独自に[ñ][Q]といふ定義を持ってゐます。「Nipponbasi」を「NiQpoñbasi」とつづることもできます。多くのローマ字拡張法式で、促音を[q]で表はすのは、新日本式の影響もあります。

月刊ローマ字ブログ 2020/01/01-2020/01/31

特集「訓令議事録」: 語末の促音

(2019/12/15)

5 学習上混乱を起こさないための注意
(中略)
(※一部抜粋)

現代かなづかい ローマ字
促音 あっと(叫ぶ) a' to (sakebu)
すうっと(消える) sû' to (kieru)

 訓令にはなりませんでしたが、議論上は、語末の促音は「'」で表はすといふ結論になってゐたやうです。語末といふのは相対的なものですから、漢字の音読みに出現する促音、動詞の活用語尾に現れる促音も語末と見なすと「'」を使ふ状況が増えます。実際、促音といふのは、擬音語・擬態語を除けば、ほとんどの場合、子音の省略なので、省略記号として「'」を使ふのは見当外れではありません。
 漢字熟語の場合、「いっ」を「ik, ip, is, it」と使ひ分けずに「i'」だけで表はせます。

一回 いっかい ikkai i'kai
一杯 いっぱい ippai i'pai
一歳 いっさい issai i'sai
一体 いったい ittai i'tai

 動詞の活用語尾の場合、語幹に表はせる子音を減らすことができます。「刈る」の語幹が「kar, kat」よりも「kar, ka'」の方が自然ですし、「買う」の語幹が「ka, kaw, kat」よりも、「ka, kaw, ka'」の方が自然です。更に、子音の前の「'」を促音、母音の前の「'」を黙字とすれば、「買う」の語幹が「ka', kaw」となります。

刈る karu karu 買う kau kau ka'u
刈らず karazu karazu 買わず kawazu kawazu kawazu
刈れば kareba kareba 買えば kaeba kaeba ka'eba
刈った katta ka'ta 買った katta ka'ta ka'ta

 母音の前の「'」を黙字と見なすといふ特性は応用が利きます。「位」といふ接尾辞はローマ字では「i」ですが、これを常に「'i」と書いてみます。

一位 いちい iti'i
二位 にい ni'i
三位 さんい san'i

 「'」を省くと、「itî」「nî」「sani」と区別が付かなくなります。「'」は、重要な機能を持ってゐるのに、記号なので常に省かれる危険があります。英字で表はすべきです。候補として一番ふさはしいのが「q」になります。今までの例を機械的「q」に置き換へたものと、最小限必要なものを掲げます。

一回 いっかい i'kai iqkai
一杯 いっぱい i'pai iqpai
一歳 いっさい i'sai iqsai
一体 いったい i'tai iqtai
刈る karu karu 買う ka'u kaqu kau
刈らず karazu karazu 買わず kawazu kawazu kawazu
刈れば kareba kareba 買えば ka'eba kaqeba kaeba
刈った ka'ta kaqta 買った ka'ta kaqta kaqta
一位 いちい itiqi itii
二位 にい niqi nii
三位 さんい sanqi sanqi

 最後に母音の前の促音はどうすべきが疑問が湧いてくると思ひます。母音の直前の「q」黙字なので、更にその前に促音の「q」を置きます。

  • 「うっあ」=「u」+「q(促音)」+「q(黙字)」+「a」=「uqqa」

ローマ字書写の対象として内閣訓令・告示

(2019/12/29)

 昨年、ローマ字書写*1で、著作権の問題がない文章として、ヱピモセズ・ブログ*2で法律文を書き写すことを始めました。ローマ字文の字面を見定める点では役立ってゐるのですが、日本語の表記体系を考へるといふブログの性格から、どうも後から見返したくなるやうな記事にはなりません。
 ここで、内閣訓令や内閣告示も法律文と同様に著作権がないことから、日本語の表記を扱った内閣訓令・告示をローマ字文で書き写すことにします。ヱピモセズ・ブログで、まづ『現代かなづかい*3』の書き写しを始める予定です。
 1945年以後、日本語の仮名遣ひは2度訓令で改められました。1946年の『現代かなづかい』と1986年の『現代仮名遣い』です。両者は、基本的には同じ運用指針を示してゐますが、名称が仮名書きから漢字書きに変はったのを始めとして、内容も、前者が事例に基づいたものであり、後者が体系に重点を置いてゐます。前者を40年間運用したあとなので、後者は、事例で悩むことは減り、体系といふ形にまとめることが可能になったのでせう。
 訓令はその性格上、同じ名前の訓令が出されたあとは、古いものは取り下げられ、省庁の記録からも消されていきます。これは、同じ名前のものが複数あると、古い内容を使はれてしまふことを避けるためでせう。従って、1946年の『現代かなづかい』はネット上から関連資料がなくなりつつあります。表記を研究してゐる立場で見ると、古いものは、その表記の歴史をたどるためにも貴重なものです。1946年の『現代かなづかい』の記録をネット上で保ち続ける必要性を感じます。